2011/07/30

近況

前回、日記を書いたのが三月末。
年度が変わり、一学年の副担任を拝命し、教職員組合の地区の書記長を引き受け、演劇部には四人の新入生が入り、定期公演は新作「蛍」を上演し、 組合の企画で一週間大船渡に行かせてもらい、夏になった。

毎度のことではあるのだが、ちょっと日記を書かないでいると、あっという間に時間が過ぎてしまう。

近況。
新作が書き上がった。

正確に言えば、まだ回想の場面が一つ残っているのだが、ここは生徒に任せることにした。
「蛍」もそうだったのだが、今回の作品も生徒に「ストーリーメーカー」(大塚英志,アスキー新書)を渡し、その書式に従って物語を作らせ(もちろん、近藤も作る)出て来た物語の種たちについて全員で話し合い、一つを選んでプロットを練り、ある程度方向性が見えたところで台詞書きを近藤が担当する、という手法をとっている。

前回に引き続き、今回も近藤の話の種は生徒の支持を得られず、お蔵入り。
物語のアイディアを出す才能に恵まれないのは、仕方ないだろうと思う。

それで、今回は「自分の意見を言うことができない女の子の話」になった。
自分の意見を言うことができなくなった理由はクラス内でのイジメ。
我ながら手垢にまみれた題材で、生徒が支持しなければ自分からは絶対に書かない類の話なのだが、しかし、書く可能性のなかった話を書いてみる、というのはなかなか楽しい。

現状、高校生女子がどのようなイジメ(被害加害)を体験しているのか、というのは当事者である彼女らが詳しいわけで、「主人公がいじめられた回想」というもののアイディアは彼女らに出してもらうのが妥当だろう。

回想の場面の台詞案は生徒に出してもらうことにした。
もちろん、場面として整えるのは、近藤の仕事。

出来たところから順に読み稽古に入っているので、稽古を始めて二週間程になる。
今回の舞台は方言で演じてみる事にした。

生徒たちは方言と標準語の混ざった言葉を、日常的な話し方として採用している。
日常的な話し方は意識されないので、これを台詞として固定する事は大変難しい。

文字としての脚本は標準語ベースで書いてあるわけで、これを方言で演じようとすると、どこの田舎の親爺が話しているのか、というような嘘くさい方言になってしまう。まるでテレビドラマで、方言指導を受けて、作られた東北方言を話している役者のようだ。
「普段話している言葉を意識するように」とは以前から言っていたものの、実際にやってみるとやはり難しい。

普段話している話し方は「アナウンサーが話している標準語」と「爺っちゃん婆っちゃんが話している方言」の間にあるわけで、どの濃度で方言を話せば良いのか、というのは試行錯誤していくしかない。
ちょっと方言に振れすぎ、とか、標準語に戻しすぎ、とか、やっているうちに適切な位置にたどり着く事ができる。

そうして、たどり着いた場所は、やっぱり「会話」としてしっくり成立する場所なのだ。
だが、この場所を文字として書き置くことはできない。

最近気付いたのだが、「ダ行」の鼻濁音というものがあるようだ。
「だからね」という意味の方言で「んだがらよぉ」という言い方があるが、この時の「だ」は鼻濁音の「だ」だと思う。
鼻濁音の「ガ行」は一応、「か」に「半濁音の○」をつける表記になっているようなので、鼻濁音の「ダ行」も「半濁音の○」をつけたい。

だが、残念ながら私のパソコンでは鼻濁音のガも鼻濁音のダも打ち出す事はできないのだ。
生徒たちには、「かがんねがらおべどげよー(書けないので覚えておけよ)」というしかない。

みんな、方言にすると楽しい、と言って、嬉々として稽古しているので、たぶんこれで良いのだろうと思う。
良い芝居になりますように。